りゅうぎん紅型デザインコンテスト
沖縄県の伝統工芸の一つである紅型の振興と若手工芸家の育成ならびに紅型デザインの新しい領域を追求していくことを目的に、「りゅうぎん紅型デザインコンテスト」を毎年開催しています。応募作品は展示会で発表するとともに、入賞作品については当行のカレンダーや通帳、広報物などに広く活用しています。
※りゅうぎん紅型デザイン公募展は、第17回(平成20年)より、りゅうぎん紅型デザインコンテストに名称を変更しています。
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一般枠
未来枠
審査総評
- ■一般枠 宇良京子氏(県立芸術大学工芸専攻准教授)
大賞「太陽と獅子」嶺井 梨沙 作品から強い色彩が目に飛び込んでくる。補色同士が濁らないよう細やかに色を配し、右へ左へとぐるぐる重なる動きとリズムが丁寧な仕事と相まって心地いい。背景の色面は型を3層重ね、白から黒へと移行する工夫が見られるが、獅子が白の縁取りに収まった表現となってしまった点が惜しい。1枚型を基軸にしながら3枚の型を重ねて表現を追求したように、主体とその他のものとの関係性にさらに踏み込むことで、表現が一層飛躍すると思う。
技術賞「光を響かせて」国吉 春香 作者が暮らす島の彩りを、水の流れにのせて様々な動植物が水中から空へと誘い、アカショウビンが鳳凰へと飛翔し、宙を舞う。雲間に見え隠れする木の葉の空間から光が降り注ぎ、セピア色の景色を静かに揺らす。複雑なモチーフと構成を、わずか2枚の型で巧みに表現している。素材や材料との対話を通じた真摯な姿勢が、作品のおおらかさを生み出していると感じられる。白の色面に対して意識的に造形に取り組むことで、さらに表現の可能性を広げてくれることと思う。
デザイン賞「七色のひまわり畑」島尻 稚菜 4度の奨励賞受賞、2023年のデザイン賞受賞に続く受賞となった。一枚型の仕事に手差しやステンシルを用いることで表現の広がりを求めた。ひまわりが光を受け咲き誇る中に、規則的な模様が雲に配され、さらに白い空間に溶け込むようにと、ひまわりが至る所に尽くされたデザインとなっている。雲の模様となったひとつひとつの形の単位がほぼ同じ大きさで配されていることで平板化した点を青の色相に細やかに変化を持たせ補っている。ひまわりの隈取りを工夫することで更に魅力的な作品になると思う。
奨励賞「弥勒世果報」伊差川 彩花 山水に作者の心情を重ねて表現した作品である。遠目には、花曇りのような淡い色調の中に紺碧の青海波がうねる。よく見ると、首里城を抱く山の稜線をモノレールが走り、様々な景色が垣間見える。鯨が跳ね、空手の躍動感を表現するために道具を用いて直接色点を打つなど、表現への率直な姿勢が感じられるものの、仕上がりはやや粗い印象を受ける。作者の強い思いを、間接的な表現である染色に落とし込んでいく過程の中に、さらなる表現の可能性が見出せるだろう。
奨励賞「島の鳥物語」相田 あゆみ 作品は、青緑の色面を背景に、2枚の型を重ねる技法が使われており、染め重ねた後に、一番初めに置いた白い糊の跡が前面に現れるのが特徴だ。この技法は、最終工程へ至るまで素材への細やかな配慮が求められる表現だと言える。画面の中央下に配された、左を向いた鳥は画面全体を引き締めるのと同時に動きを止めてしまっている。この鳥の位置をもう少し右にずらすだけで、鳥と植物が語り合うように繋がり、作品全体に躍動感が生まれる。小さく隠れているヤンバルクイナやウリ坊を見つけると、作者の遊び心に触れた気がして、自然と笑みがこぼれる。
【2025年8月22日付 琉球新報掲載】
- ■未来枠 宮城守男氏(琉球びんがた事業協同組合理事長)
優秀賞「花咲」青野 花咲 色彩豊かに咲き広がる華やかな作品。画面を花で埋め尽くすと重くなりがちだが、パステル調の色彩や抑え気味の隈取、バランスの良い白場の残し方により、若々しく軽やかに仕上がっている。四季と感情を託した色彩が、画面上を寒色から暖色へ緩やかに移ろっていったり、一見気付かないが見る角度を変えると中央縦ラインに、隈取で変化をつけた花の塊がブーケのように立体的に浮かび上がったり。隠れた仕掛けが奥行と複雑さを生み、見るほどに面白い。
優良賞「勝利へのフルスイング」入里 雅 斬新なモチーフと大胆な構図、筒引特有の躍動する力強い線が審査員の目を引いた。技術的にはまだまだだが、手描きの自由な糊線が打者の感情を饒舌に語っており、今回の表現に筒引の技法を選んだことが功を奏している。スイングの軌道や体から立ちのぼる気合いか汗か、独特の描写も面白い。脚の表現に妙に引きこまれたが、後日、打者は本人だと知り納得。好きなもの、情熱を注ぐ対象を染めることで、細部に人を惹きつける何かが宿るのだろう。
審査員特別賞「植物図鑑」神里 咲希 24種の四季を彩る植物を立涌文様に仲良く配したかわいらしい作品。沖縄、本土それぞれの植物が、茎や枝葉まで工夫して立涌内にデザインされており、一つ一つ発見を重ねながら眺めていく楽しさがある。出品作の中では落ち着いた作風ながら、型彫のせんぼりの形や、はみ出しやすい染地型の隈取りなど、細部までよく考えて丁寧に作業を重ねており、それがこの作品の好感度・完成度を高めている。今後の成長を楽しみに思わせる一作である。
今回の未来枠は筒引の作品が圧倒的に多かった。型紙を彫るより手早く思えるかもしれないが、筒引のシンプルな線には感情や気質、技量といった「その人」が如実に現れる。自在に表現できるようになるには鍛錬が必要で、イメージに技術が追い付かず「型紙だったら」と惜しく思う作品も見受けられた。表現したいものにどの技法が適しているのか、まずそこから考えて取り組んでほしい。
とはいえ未来枠は技巧に寄らない素直で瑞々しい表現が魅力でもある。多くの体験や感動を糧に、伸びやかに作品作りに向かってほしい。【2025年8月22日付 琉球新報掲載】
デザイン意図(一般枠)
- 大賞「 太陽と獅子」
沖縄の燃えるような太陽と翔るシーサーを、元気が出るような明るい色で染めました!
- 技術賞「光を響かせて」
今日も太陽の光がふりそそぎ、島の暮らしを照らしている。光は反射して色となり、私の目にも飛び込んでくる。
様々な色が調和して魅せてくれるその景色はまるで、美しい音楽のよう。この音色がどこまでも響き渡りますように。
- デザイン賞「七色のひまわり畑」
沖縄でもよく見ることのできる「ひまわり畑」と神秘的な「彩雲」を組み合わせ、さわやかな夏を表現しました。
見る人に元気と明るさを届けられるようなデザインを心がけました。
- 奨励賞「弥勒世果報」
燦々と太陽(てぃーだ)に青く輝く海 そよそよと潮風にふかれ踊りだす植物
三線や太鼓の音にのせて踊りだす島人(しまんちゅ)
世の中が豊かで平和でみんなが幸せになることを願って
- 奨励賞「島の鳥物語」
普段、作業をしていると外から鳥達の鳴き声が聞こえてきます。それは呼応し合っていてまるで会話のよう。
沖縄で出逢う事のできる動植物と共に自然を表現しました。
デザイン意図(未来枠)
- 優秀賞「花咲」
たくさんの花を重ねて季節や時代、感情を表す「生命のリズム」を表現しました。
花をモチーフに色をたくさん使い、秋と喜びを黄・橙、平和と夏を青・緑、愛と春をピンク・赤で、哀しみや静けさ・冬を紫やグレーで表しました。
これらから私たちは互いに助け合っていることを表しました。
- 優良賞「勝利へのフルスイング」
試合で勝ち負けよりも、全力で挑む自分自身の姿勢、一瞬に懸ける情熱と覚悟を表現しました。
そんな覚悟や闘志、冷静さを服のラインに沿って隈どりしました。
- 審査員特別賞「植物図鑑」
華やかな花々がまるで植物図鑑を開いた時のようだったのでこのタイトルにしました。
また、両側は日本本土、中央は沖縄で見られる12ヶ月の花々をデザインしました。